2023.02.22
斎藤から連絡がきた。
小美玉道場に行ってもいいですか?
私は二つ返事でOKを出した。
わざわざ遠いところからありがたいことだ。
今年初めての稽古だと言っていた。
斎藤は私が育てた黒帯と言ってもいいのだろうか?
私一人だけではないが鈴木、斎藤、鬼澤あたりは、そう言わしてもらいたい。
特に鈴木、斎藤はこの世界では年齢的に遅い入門だったこともあり、黒帯を取得した時は、とにかく心から嬉しかったのは、言うまでもない。
私みたいに若い頃から始まっての4,50代を迎えるのと、そこから始めるのでは大きな違いはあるだろう。
はっきり言ってどちらも凡才だ。
かくいう私もだが。
そんなやつらだからこそ、教えがいがあった。
しかも体も固かった。
とにかく中年から始めて黒帯を取るということは、実に大変なことだ。
当時はまだ私も現役を離れたばかりで、試合志向が強く、道場生には出場をよく進めていた。
当然のごとく斎藤にも何度か出場を促した。
1回だけでも勝ってみたいと、頑張っていたがそれは結局かなわなかった。
仕事の合間をぬって稽古を頑張っていたのを見ていたので、結果をだしてやれなかったことには私も悔やんだ。
斎藤は仕事も忙しくなり年齢的にも、徐々に大会から離れていくしかなかった。
斎藤は私には素直によくついてきた。
斎藤は私の指導方法がフィットしていたのかもしれない。
今でも私が昔言ってたことを忘れていないらしい。
数少ない私の教え子だ。
凡才は凡才を知る。
昔は今みたいに情報もないし、先輩がやっていた稽古などを参考にした。
何も考えず、気合いだけでがむしゃらに勢いだけの稽古ばかりしていた。
そして一流選手や好きな選手の真似をしては、自分に合うものを模索した。
まあそれはそれで悪いわけではなかったが。
明確な指導者がいないので、自分の何が悪いのかさっぱり分からなかった。
だから後輩達にはそんな無駄な時間をすごしてほしくないと常々思っていた。
だから自分がそういう失敗した経験が斎藤にはうまくはまったのではないだろうか。
正直蹴りは突きと違って、稽古の仕方はデリケートな作業だ。
かなりの体の使い方を要求される。
体の固い人はどうしてもよく後にのけぞってしまう。
そこを直すべく足を無理に上げずに、後ろにのけぞらないでバランスを重視するような蹴り方を心掛けさせた。
彼はどちらかというとパンチャーなのでそんな無理にバランスを崩してまで蹴る必要はないと教えたのだ。
もともとパワーがあったし、腰も強いのもありしっかりとした突きを繰り出せるようになった。
人にはそれぞれのスタイルがある。
形だけを教えるのは簡単だが、私が指導で一番大事にしているのは、その人しか感じられない感覚や感性だ。
いくら他人が口で言ったりと形だけが出来ても、自分自身が感じられなければ、技として身についてはいないのと一緒だと思う。
その人の特性を生かした、スタイルを本人にヒントを与えては模索していく。
そんな作業を繰り返していくのが、一番好ましいと私は思っている。
彼はそんなところを不器用でも私の教えを体現してくれた一人だったのではないだろうか。
実に斎藤には感謝している。